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東京地方裁判所 昭和44年(ワ)13060号 判決 1970年6月27日

被告 帝都信用金庫

理由

一、原告が訴外伸栄鋼管株式会社(以下訴外会社と称する)に対し、その主張のとおり債務名義を有していたこと訴外会社が原告主張の通り小切手の不渡り処分を免れるため、被告に金七〇万円を預託し、金七〇〇、〇〇〇円の預託金返還請求権を有していた事実、原告が右預託金につき東京地方裁判所昭和四四年(ル)第二五九九号、同年(ヲ)第二六八七号債権差押及び転付命令を得、同命令が、昭和四四年六月一三日被告に送達された事実についてはいずれも当事者間に争いがない。

二、被告は原告が転付命令を得た当時、転付すべき債権は消滅等していたと主張するので判断する。

(一)  《証拠》によると、額面金七〇〇、〇〇〇円、振出日昭和四四年一月一五日、支払場所帝都信用金庫京橋支店、支払地東京都中央区、振出地東京都中央区の記載のある小切手が不渡りになつた事実が認められる。

(二)  《証拠》によると訴外会社が被告に対する預託金返還請求権のうち金五〇〇、〇〇〇円につき東京地方裁判所昭和四四年(ル)第四九二号同年(ヲ)第五八〇号により同年二月六日債権差押及び転付命令が出された事実、右命令の目的たる債権は訴外会社が振出したる額面金七〇〇、〇〇〇円也、振出日同年一月三一日、支払場所帝都信用金庫京橋支店、支払地東京都中央区、振出地東京都中央区の記載のある小切手一通の不渡による銀行取引処分を免れる為預託した預託金返還請求権であることが認められる。又東京地方裁判所昭和四四年(ヨ)第一三一八号により同年二月二六日右預託金返還請求権のうち金二〇万円について仮差押決定がなされた事実が認められる。

(三)  そこで、右債権差押及転付命令、仮差押決定が有効か否かにつき判断する。

証人米村久の証言の結果、その他弁論の全趣旨を総合すれば訴外会社が被告に対して有していた債権は前記金七〇〇、〇〇〇円の預託金返還請求権であり且つそれのみであることが認められる。

そして、それは前示のとおり訴外会社が昭和四四年一月一五日振出した額面七〇万円の小切手の不渡処分を免れるため、訴外会社が預託した預託金返還請求権であることは当事者間に争いのないところである。

ところで前示の通り、訴外佐藤隆が転付を得た東京地方裁判所昭和四四年(ル)第四九二号同年(ヲ)第五八〇号の債権差押及転付命令の差押債権欄には債権の表示の一部として「振出日昭和四四年一月三一日」の記載があり、右仮差押決定の差押債権欄には債権の表示として同じく「振出日同年一月三一日」の記載があり、不渡となつた小切手の振出日(昭和四四年一月一五日)の記載と相違している。(その他の記載事項は同一である。)

原告は、小切手は、振出日が異なれば別個の小切手であり、それの不渡処分を免れるための預託金はしたがつて別個のものであると主張する。なる程振出日の異る小切手は別個のものというべきであるが、前示の通りこれが不渡処分を免れるための預託金は訴外会社と被告との間に、社団法人東京銀行協会に提供して不渡処分を免れる目的で預託がなされたものであるから、振出日が誤つて一月三一日と記載されて契約されても、現実に不渡を免れるべき小切手即ち一月一五日振出の小切手に対してなされたものと解すべきである。

したがつて訴外会社と被告との間に二個の預託金契約或は一方は不成立、一方が成立するというような関係にあるものではなく、一個の預託金契約が存するのみである。昭和四四年(ル)第四九二号同年(ヲ)第五八〇号の債権差押及転付命令、前記仮差押決定の各差押えるべき債権の表示は多少、正確を欠く憾みはあるけれども他の債権と混同するものとはいえず、原告主張の小切手の不渡処分を免れるため預託された預託金返還請求権に対するものである。そして前示のとおり被告に昭和四四年二月七日命令が送達されたので、五〇万円については転付の効力が生じ訴外会社に対する債務は消滅したものである。又その余の二〇万円については前示のとおり仮差押決定がなされ昭和四四年二月二七日被告に送達されている。

(四)  原告主張の債権差押転付命令は、その目的たる債権のうち金五〇万円については既に消滅し、その余の二〇万円については原告が転付をうける前に既に仮差押決定がなされている。

(五)  しからば原告は本件転付命令により本件債権の転付をうけることは有り得ない。

四  よつて原告の本訴請求は失当であるから棄却する。

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